こころ木造建築研究所

コンセプト

森林と向き合い、木で家をつくる

木材の活用と森林保護

今日本の山には、戦後に大量植林されたスギやヒノキが育ち、伐採時期を迎えています。しかし植林された苗が生長する間に、輸入木材が木材消費の8割を占めるようになり、日本の人工林は伐採されずに放置されてしまいました。現在手入れのされぬ人工林は荒れ果て、バランスを失った森林は危機的な状況に直面し、国土の保全からも問題視する声が高まっています。戦後大量で低コストの住宅を造る為に外国の木材に依存していましたが、現代では、成育した日本の木材を活用していくことが、日本の森林を守り育てていくことに繋がっていくと考えられています。

落とし込み板壁構法

 

当社の大きな特徴が『落とし込み板壁構法』の家造りです。板倉構法とも呼ばれ、木材の持つ断熱性・調湿性を活かし、粘り強い耐震性能を合わせ持つ構法です。落とし込み板壁構法では、現在の人工林から最も多く生産される杉材や桧材を柱や梁に使用し、柱間に杉の厚板を落し込んで壁を造ることで、通常の在来工法の2倍以上の木材を使用しています。木材を豊富に使用する事から、森林の活性面からも注目され、全国的にも取り組みが広がっています。また、家の骨格を伝統的な木組みとすることで大工の手仕事・技術を必要とする構法ですが、この構法を通じて大工技術の継承に寄与して行くことが出来ると考えています。木材をふんだんに使う事から高コストの家造りだと感じるかもしれませんが、構造要素となる板壁が断熱材や仕上げとなる為、建材費や内外装の工事費が通常よりも低く総工費として従来の在来工法程度に抑えられています。板倉の家は木そのものに包まれた素朴で優しい表情の家となり、家族と共に呼吸し、成長していく家です。森林保全や技術の継承の目的だけでなく、住む人にとっても心地よく、安全で快適な生活をおくることが出来ると考えています。


バランスの取れた設計をする

人や家に大切な環境を再認識する

従来、日本の民家に見られる開放的な間取りの家は、風土や生活の中から必然的に出来上がった間取りだと言えるでしょう。南に面して大きな開口を設ける事で太陽光と風を取り込み、暖かさと涼しさを得ていました。また同時に、家の耐久性の向上にも大きな役割を果たし、湿度の多い日本では、通風を取ることで柱や梁といった構造上主要な材料を長持ちさせ、永く住むことの出来る家の仕組みを造りあげてきました。しかし、現代の多くの住宅は耐震性や省エネルギー性を重視するあまり、開口部を最小限に留め、外に閉じた間取りが多いように思います。今と昔では大きく周辺環境や生活が変化し、現在に対応した間取りが必要だと思う中で、人や家にとって大切な環境を再認識していきたいと思います。

木材の有効利用と構造計画

上記で開放的な間取りを考えていきたいと話しましたが、同時に耐震性を考える事を忘れてはいけません。家の間取りは直接家の構造と結びついているので、当然開放的な間取りにはそれに合せた構造的な計画も重要になってきます。構造壁の整理や床剛性と言った、従来の建築基準法などの基準を守る事は当然ですが、木材同士の組合せにより、粘り強い木組みを成立させて行く事を心掛けています。また、構造上必要だからと言ってむやみに大きな木材を使うのではなく、山から搬出される長さや、樹齢や樹種に合った大きさを考え木組みを行う事も、木材を無駄なく有効に使うためにとても重要な事と考えています。


職人と共につくる

人と人、木と人の深い関わり合いを大切にする

地域の木材で家を造るということは、木材の輸送の上でも無駄が無く環境負荷を低減できるという利点だけでなく、造り手や住まい手が木材に携わる人達と積極的に関わる事ができるという利点もあります。木材は、成育条件や伐採時期・乾燥方法などの様々な条件で変化し、また癖や特性も違っています。それらの木を使って家造りを行うという事は一本一本の木について管理し大切に扱い、それらに合わせた使い方をしていかなければなりません。そう言った地道な作業は、職人の経験や人と人の信頼の上で成り立っている事で、図面や一定の基準におさめて出来る事ではありません。当社では、木材は主に天竜・大井川・安倍川流域の木材を直接買い付け、適材適所に合わせた木配り(木材の配置)を行っています。また、大工の手仕事にこだわりを持ちたいと考え、設計事務所で有りながら、事務所の一部に大工の刻み小屋を併設しています。仕事場が近いことで設計者と大工の交流が盛んに行われ、一体となった家造りが行えると考えています。それらの仕事の中で若手大工の育成も試みており、建築専門学校を卒業した大工見習いが技術の習得に励んでいます。このような取組みは、性能・品質が重視される現代の工業化の中で逆行しているかのようですが、人と人、木と人の深い関わり合いが大切と思い、実践しています。そして、手間も時間もかかる仕組みを行うことで、逆に無駄のないエコロジーな環境が構築できるだろうと考えています。


学び、伝える

木造建築の専門家としての役割

暮らしを包む器となるものが「住宅」であるならば、その役割は非常に大きいものと言えます。「住宅を考えること」は「暮らしを考えること」。そこで私達は、「家づくりや暮らしづくりに携わる私たちが、今出来る事とはなんだろう?」と考え、木造建築を通して見えてくる問題…森や山をはじめとする自然環境や、心と体の健康問題、また、子育てや家族のつながりなど、日々の暮らしに関する事柄について、『KoKolab.』や『ここらぼスクール』を通し、解り易く一般の方にお伝えする活動を行っています。
現代は森林や環境・職人の後継者問題をはじめ、伝統的な構法での家造りにおいても、国の基準や制度から多様な問題が発生しています。私たちはこれらの諸問題についても、伝統的な構造を言い伝えや感だけで捉えず、『木の建築フォラム』等の専門機関に所属して実際に実験を繰り返して解析する活動も行っています。そして、そこから学んだことを実践に取り入れ、より良い木造建築をつくっていきたいと思います。