こころ木造建築研究所

暖かさは豊かさ、木の家で火と共に暮らす

 今年も桜の開花を迎え、草花が一斉に活動を始める季節となりました。春は暖かく穏やかで、屋外でも日中は上着を脱いで、軽い服装で過ごす時間も多くなってきました。家の中でも厚い布団が一枚薄くなったり、締め切っていた窓も朝から開けて外の空気を取り込んだりと春の暖かさを楽しんでいますが、なかなか止められないのが薪ストーブ。夜少し寒いとついつい薪を焚き、暖かさと炎の揺らめきを楽しんでしまいます。…と言ってももう4月。ゴールデンウイークまで引きずる訳には行きません。あと数日で今シーズンも終わりと言うことで、今回号は薪ストーブを題材に、その魅力や特徴、最近の薪ストーブ事情についてもお伝えしたいと思います。来シーズンこそは薪ストーブのある暮らしをするぞ! と考えている方、薪ストーブには興味があるけどなかなか一歩が踏み出せない方など、ネットの情報だけでは伝わりにくい薪ストーブの魅力についてご紹介したいと思います。

「若葉の家」hearthstone GreenMountain 40 TyuHybrid

一見するとモダンなデザインのシンプルな薪ストーブと思うが、本体は鋳物で出来ていて炉内に32㎜のソープストーンのブロックが使用されているハイブリットの薪ストーブ。鉄と石の良さを引き出し、蓄熱性が高く、穏やかな放射熱を感じる一台です。

「満の家」
Dovre 640WD

当社では一番人気の薪ストーブ。見た目はクラシックスタイルだが操作性が良く炉内も広い。前面に加えサイドにも扉が付き、扉の開閉による熱の低下を抑えた構造となっている。コスパも良く、様々な点で満足度の高い機種と言える。

「余白の家」HETA NORNsoapstone+oven

縦長でオーブンの付いたスタイル。鉄の本体に加え、側面と背面をソープストーンと呼ばれる石で包まれているため、それぞれの素材の利点を生かした構造となっている。縦長スタイルは比較的炉内の広さに問題があるが、ノルンはゆったりとした広さを確保し、使い勝手も良い一台となっている。

「伝兵衛堂Aさんの家」hearthstone Castleton TH 

ソープストーンでつくられた石の薪ストーブ。蓄熱性が高く、一度温まると冷めにくいのが特徴。四角いシンプルな形状だが見た目以上に内部が広く大きな薪も入る。前面ガラスから見える炎の色、揺らめきなど、ストーブの前に座ってゆっくりとした時間を過ごしたくなる一台です。


 薪ストーブのある暮らしをはじめて今年で20年。新築と同時に憧れの薪ストーブを設置しました。計画当初、薪ストーブと床暖房(ソーラーシステムを採用した)の両方を取り入れたいと理想は高かったのですが、現実は厳しく、予算的にどちらか一方を選択することになりました。太陽熱を利用したソーラーシステムには強い憧れがあり、木の家に惹かれたひとつのきっかけでもありました。また、薪ストーブは、炎の揺らめき、暖かさ、シンボリックな姿など、こちらも木の家を引き立ててくれる存在として家づくりの大きな柱となっていました。どちらか一方を選択して、数年後にもう一方と考えれば先にソーラーシステムを選択していたと思いますが、選択肢があったことで深く考えることが出来、薪ストーブには暖かさとは別の大きな魅力があることに気がつき、ソーラーシステムへのこだわりがすっと引いていきました。その魅力を一言で現すことは出来ないのですが、炎が結ぶ家族との時間、友人や仲間との協働、環境やエネルーとのつながり、何と言っても体の芯まで暖めてくれる幸福感など、人と火の関係は切っても切り離せない大切な結びつきだと感じました。最近はキャンプブームも広がり、暮らし以外の体験の中で火を楽しむ方も多くなってきました。暮らしの中で直接火を使う事が少なくなってきた現在においても、やはり火の魅力は人を惹きつけるのでしょうね。日本で薪ストーブが広がってきた背景は様々あると思いますが、安全性や操作性、省エネ化がどんどん進化している事もひとつの要因だと思います。次ページで最近の薪ストーブ事情と合わせて人気の機種をご紹介します。


薪ストーブは実用性と
共に進化している

 薪ストーブと言えば、クラシックでどっしりとした存在感、鉄で出来たワイルドなやつと思われる方も多いと思いますが、最近は姿やイメージが変化してきました。スッキリと縦型、ガラス面が大きく炎が綺麗に見える。鉄だけでなく石で包まれ、機種によっては、ほとんど石だけで出来ているものもあります。薪ストーブ屋の伝兵衛堂さんに話を聞くと、薪ストーブの先進国であるヨーロッパでは、もはやクラシックな薪ストーブを見る事は少なく、暖房機能を兼ねたインテリア家具として使われる事も多いと聞きます。日本ではまだまだ暖房器具として考える方が多いと思いますが、インテリア性も年々高くなってきている事も事実です。最近人気の高い薪ストーブのひとつに『ノルン 』と言う機種があります。この薪ストーブはクッキングストーブとして利用する事も出来、薪を焚く炉の上にオーブンが付いています。縦型スタイルで側面と背面がソープストーンと呼ばれる石で包まれ、機能とデザインのバランスの良さが人気を集め、当社でもすでに数台の設置事例があります。基本的に薪ストーブは本体が温まり、放射熱によって徐々に壁や床、天井を暖めていきます。鉄は温まりやすく冷めやすいと言う欠点もあります。逆に石は、一度温まると冷めにくいですが、温まるまでに時間がかかります。この2つの素材の利点と欠点をそれぞれが補い、温まりやすく冷めにくい薪ストーブとなっています。石で包まれた本体は、背面の壁に熱を伝えにくくするためのガードとしても意味を持っています。薪ストーブの背面にレンガや石を積んだ壁を見る事も多いと思いますが、このストーブはそのまま設置する事が出来、スッキリとした印象の空間づくりが出来るのも利点のひとつだと思います。熱を蓄える事が出来れば、自然と薪の使用量を少なく出来、大変な薪づくりを軽減出来ますね。本体のほとんどが石で出来ている『キャッスルトン』と言う薪ストーブは、石の良さを全面に感じる薪ストーブで、先ほどの説明に加え、体に感じる暖まり方に違いを感じます。熱くて近づけない機種もありますが、このストーブは優しい熱を感じ、薪ストーブの前に座って、ゆっくりと暖かさを楽しみたくなる機種だと思います。鉄や石、それらのハイブリットなど、性能やデザイン、安全性や操作性など、薪ストーブ選びのポイントはいくつかあると思いますが、ネットの情報だけでなく、実際に体感してみる事で納得の一台に出会えると思います。伝兵衛堂さんのショールームにはたくさんの機種が並び実際に暖かさを体験する事が出来るので是非足を運んでみてください。

ペレットストーブを選ぶ前に
知っておきたいこと

 薪ストーブブームの中で、都会などでも気軽に火を楽しみたい、石油や電気に頼らず環境負荷の低い暖房器具を取り入れたいと考える方も多くなってきました。その中で注目されているのが“ペレットストーブ”。木を砕いた形状にして圧縮したペレットと呼ばれる燃料を燃やすストーブで、森林整備の中で出た間伐材や、建築材の端材を利用したりと、資源利用の観点からも注目をされています。ペレットストーブにも様々ありますが、タンク部分にペレットを貯め、少しずつ燃焼室に運んで燃やしていくものが一般的です。着火は手動、自動の両タイプがあり、ファンで暖かい空気を送り出す機種もあります。薪ストーブに比べて手軽に使用出来、薪の準備が不要な点など、気軽に火のある暮らしを楽しむ事が出来ます。薪ストーブに比べ、安心して手軽に設置や利用が出来、利点の多いペレットストーブですが、導入前に知っておかなくてはいけない大切な事があります。それは、燃料として使うペレットについて理解をしておくという事です。ペレットは、“バークペレット” “全木(混合)ペレット” “ホワイトペレット〟と呼ばれる3つの種類に分けられ、それぞれ特徴が大きく違います。バークペレットは樹皮を使ったタイプで、燃えが悪く、煙を多く出すので基本的にペレットストーブでは使用できません。全木ペレットは、樹皮付き丸太を原料としたり、樹皮と木部を任意の割合で混合したタイプです。間伐材や製材工場などから出る廃材を利用としています。ホワイトペレットは、樹皮を含まない木部を主体としたペレットで、住宅などの建築材の加工過程で出た端材などからつくられ、燃焼がよく良質のペレットと言えます。3つのペレットをご紹介しましたが、機種によって使えるペレットに違いがあると言うことを知っていただきたいと思います。また、ペレットストーブで使用出来るペレットは、全木ペレットとホワイトペレットですが、使用している木材を調べてみると、国産材だけでなく輸入木材も使用していることが多く、特にホワイトペレットはその傾向が強いと感じます。ペレットストーブの説明書にホワイトペレット専用と書かれていることも多く、間伐材など国産材のペレットを使用したいけど、実際に使えるペレットに制限があり、希望のペレットが使えない、入手出来ないと言った問題もあるかもしれません。ペレットストーブを選択する方は単に暖房器具として検討しているのではなく、環境負荷やエネルギー問題に意識が高い方だと思いますので、是非導入前にペレットについて知り、希望のペレットが使用出来るストーブを選んでいただきたいと思います。

TOYOTOMI PE-8

分かりやすい機能と操作性、シンプルなデザインの中に無駄のない機能美を感じるペレットストーブ。上部の燃料タンクには10kgのペレットが入り、大きなガラス面からは炎も十分楽しめる構造となっている。ブラックに加え、レッド、ホワイトのライナップがある。

薪ストーブは
大切な我が家の一員

 薪ストーブのある暮らしをして早20年。冒頭でも話しましたが、我が家にとって薪ストーブは無くてはならない大切な存在となっています。子供たちにとっては小さな頃から家にある当たり前の存在、寒くなると薪を燃やして家を暖め、パチパチと火が跳ねる音、焼き芋をしたり時には服を乾かしたりと生活の一部として共に過ごしてきました。2人の娘は共に社会人になりそれぞれ一人暮らしをしていますが、冬に家に帰ってくると薪ストーブの前に座って暖まるのが楽しみのようです。時々自分たちが家を建てるとしたら…と考えるようで、その時真っ先に要望が出るのが薪ストーブ。キッチンやお風呂と同様に、家に必要なアイテムとして考えているようです。様々な薪ストーブがあり、性能や機能など多種多様、最近の薪ストーブ選びは選択肢が多くて悩むと言った声も少なくありませんが、みんなとても楽しそうな顔をしています。妻と先日薪ストーブってどんな存在? と話したことがあります。共通していたのは犬や猫のようなペットの様な存在かな? ということ。我が家ではペットを飼った事がありませんが、薪ストーブも我が家の大切な一員だと感じ、“うちの子がね”なんて話したりします。当社で薪ストーブを設置してくれたお客さんは実に多く、設計したお宅の半数近くに設置していると思います。それぞれのお宅にお伺いすると真っ先に薪ストーブの話になり、体験談や感想を話してくれます。薪ストーブを使って料理をしたとか、薪割りや調達の苦労話、子供が火をつけられるようになったなどなど、笑顔で話してくれる様子を見て、やはりみんなにとっても大切な存在で、暮らしの中心になっていると感じます。今回薪ストーブやペレットストーブの話題を私の体験談と視点でお伝えさせていただきましたが、環境面や安全性を考えた新しい機種がどんどん増えています。少し前だったら思いもつかなかったデザインや性能、建築と一体化し暖炉のような姿をした機種など、ハイテク時代と逆光しているかのような薪ストーブですが、その人気ぶりを見ると、今後益々時代に求められる存在になっていくかもしれませんね。さて、今年の薪ストーブシーズンもそろそろ終わり、煙突の掃除をしてまた来シーズンを楽しみにしたいと思います。最後に私からの薪ストーブ選びのアドバイスを一つ、薪ストーブは機能や性能よりも、愛着の持てる一台を選んでみてください。きっと家族の一員の様に大切な存在となると思います。では素敵な薪ストーブライフを。

ケンズメタルワーク
KMW-940-Oven

クッキングストーブとして人気のあるオーブン付き薪ストーブ。通常は火室の上部にオーブンがあるが、オーブンを下に配置し、天板でも料理が楽しめる構造となっているのが特徴。クッキングストーブはケンズメタルワークの真骨頂。続々と新しいシリーズが開発されています。

ケンズメタルワーク
KMW-940 

分厚い鉄板を溶接とボルトで組み立てたハンドメイド薪ストーブ。炉内の広さ、操作性、放熱性など申し分のない機能と性能で、ガシガシ使える頼もしい薪ストーブ。無駄のないデザインも好評で、製作者の高橋さんの思いがギュッと詰まった愛くるしい一台。

みんなの薪ストーブ

ココラボ薪ストーブユーザーの自慢の一台を投稿。家づくりと合わせて始まった火のある暮らし、薪づくりやメンテナンスなどの大変な作業もあるけど、炎の揺らめきや暖かさを実感するとそんな苦労も楽しいと思えてくるから不思議。薪ストーブにケトルを乗せたり、ペットと共に楽しんだりと、豊かなひと時が目に浮かびます。今年もありがとう、また来シーズンの活躍に期待しています。

スマイルの家
弓の家
共の家
光彩の家
刻の家
三春の家
四季の家
旬の家
信の家
青の家
素顔の家
爽の家
豆の家
八重の家
風音の家
里の家